プロローグ
1.ノルトラント上空 16:47/17/Nov/2088

サイト内に双胴のシルエットが飛び込む。
その瞬間にあわせてトリガーを握り込む。
ブラスターの断続的な光線が、その哀れなシルエットに食い込む。危地から逃れんと藻掻くように、あるいは断末魔の悲鳴を上げるように、派手なイタリアンレッドとパッションオレンジに塗り分けられた機体はダイブを始める。だが残念なことに、この赤いヤツが絶好の位置に陣取った俺の機体から逃れる術はない。
ニューコム製40mm熱戦砲二門の火線が、その哀れな機体の翼を引き裂き、動力炉に致命的なひび割れを生じさせる。制御を失った双胴の戦闘機は、錐揉みに陥りながらもメインスラスターを噴射し続け、―――紫色のスパークとともに爆散した。
相転移炉の密封が失われ、限界まで詰め込まれた高密度プラズマがその軛から逃れた結果だ。
「ナイスキル!」
「ありがとさん。護衛機どもを片付けてくれたおかげさ。ま、見た目の割にチョロい相手だったけどな。」
僚機の祝福に軽く返事を返す。
実際、あんな派手なカラーリングの割に腕は大したことがなかった。護衛機も数こそ多かったが練度はさほどでもなかったし。もしかすると、ワールドステージに出てきたばっかりのニュービーだったのかもしれない。なら悪いことをした。問答無用で落とさずに、せめてドッグファイトの真似事だけでもしてやればよかった。
まぁ、デブリーフィングでスコアを確認すれば、どんな相手だったのかはイヤでもわかるだろうが。
「ターゲット撃墜を確認。各機報告。」
AWACSからの通信が入る。恐ろしく冷たい機械的な声。低く抑えてはいるがそれでも高く響くソプラノは、我らがスコードロンリーダー様だ。
「ナインテイル、異常ないわ。」
「蝉丸も異常ナッシング。」
「……スラッシュ、グリーン。」
僚機たちに続いて俺も答える。
「バセット、NPだ。」
「了解。セクションE4で"鬼神哭"が捕捉されて戦闘に入った。敵勢力は2SQ。救援要請がきている。」
我らがリーダー様は、厳しい声で言った。どうやら、敵主力はそっちで、こちらが出くわしたのは陽動か囮か捨て駒か、とにかくそんなところらしい。
「何が"鬼神も哭く"だ。ご大層な名前の割にゃ、泣きが入るのが早くないか?こっちは敵ベースの制空権確保がお仕事だっての。」
「1対2だと、FA主体のあいつらにはちょっときついかもね。」
蝉丸はぼやき担当。そしてツッコミはナインテイル。これがいつものパターンだ。
「……だが、稼ぐにはいい状況だ。」
スラッシュはいつも冷静だ。損得勘定が先に立っているともいうが。
「どっちにしろ、"鬼神"どもが殺られればこっちはFA抜きで不利になるのは目に見えてる。行くんだろ?エリザベート。」
話をまとめるのは俺の役目。より正確には、リーダー様のご機嫌を伺っているともいう。
「無論だ。"鬼神哭"は都合よく撒き餌代わりになってくれた。2スコードロンまとめて叩きつぶす好機だ。」
泣く子も黙る我らが指揮官機、"吸血姫"ことエリザベートが、感情の失せた声で言う。
「ターゲットは他のスコードロンに任せて、最多撃墜ボーナスを狙う。」
その声に、他のメンバーたちがニヤリと笑うのがわかる。もちろん、俺も笑いを浮かべていることだろう。
「まぁ、いいけどよ!」
「ノンプレーヤー機より稼げるしね。」
「……それでこそ"ブラッドレッズ"だ。」
「殺り甲斐のあるヤツがいるといいが。」
俺たちの同意に、エリザベートが短く指示を出した。
「進路10。急ぐぞ。」
その日、俺たちのスコードロン"Blood Red Sky"は、合計36機の撃墜を記録し、うち19機がプレイヤー機だった。5on5のPK記録としては歴代3位タイだという。
そして、メンバーそれぞれがスコアを伸ばして懐を暖め、吸血姫とブラッドレッズの名前はさらに悪名を高めた。
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2020/12/31(Thu) | 小説本文 | トラックバック(0) | コメント(0) | page top↑
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