バセット(1)
3.レーベック 13:20/19/Nov/2088

中世以来の石造りの町並みと、対照的に広がる航空基地群。バルト海に面したドイツの瀟洒な港町を模したこの街が、俺のホームタウンだ。
同盟軍の東方中枢基地にして、工匠たちの集う街。日夜、カスタマイズを施されたチタンとカーボンの翼たちが飛び立ち、そしてそのいくらかは帰ってくる街だ。
前進基地からは300km近く離れているためそれほどの緊張感はないが、町外れに建てられた巨大な対空砲塔や、時折遠くから甲高く響くエンジンノイズが、この街が戦場の側にあることを実感させる。
立ち並ぶハンガーの向こうの空を、今も一機の戦闘機が飛び立ってゆく。ペールホワイトと淡いパープルに塗り分けられ、サイドトラスにペガサスを描いた三胴形式の戦闘機・RVR-01。有名スコードロン"ベレロフォン"の一番機だ。すぐに二番機が追いつくが、三番機以降が来る様子はない。二機のRVR-01はそのままヴェイパーを曳いて上昇し、視界の外へ消えた。おそらく、今日はミッションなしのMOB狩りか、ランクの低い索敵ミッションのようだ。
一昨日(現実世界では昨日)俺たちが参加したミッションは、条約軍の戦略爆撃機基地を襲撃する長距離侵攻ミッションだった。これは、かなり重要度の高いミッションだったが、同時に同盟軍と条約軍の間で戦われた大規模なキャンペーンの一部に過ぎなかった。一昨日デブリーフィング後に確認した時に見た集計では、航空部隊だけで同盟軍プレイヤー600人以上、条約軍プレイヤー700人以上が様々なミッションに参加して戦っていた。ノンプレイヤー機を含めると、一日の間に6000機以上は稼働しただろう。地上部隊も含めると、両陣営の総動員兵力はカウカス戦線全体の6割以上に及んだ。戦力が拮抗して一進一退が続いているカウカス戦線では、概ね2~3ヶ月に一度はこのような大規模航空撃滅戦が生起している。ちなみに、昨日の結果は同盟軍が幾分か勝ち越していた。キルレシオでも6対4に近いスコアだったし、地上部隊が前進基地を二カ所奪取していた。
こんな大イベントの後には、ほとんど大きなミッションは発生しない。特に、航空部隊の出番は索敵(パトロール)や偵察(スカウト)、輸送部隊の護衛(エスコート)がいいところだ。キャンペーン明けの時期は、機体の整備やスコードロンの再編にいそしんでいる人間の方が多い。
"ベレロフォン"の二機も、他のスコードロンメンバーがメンテナンスや装備強化で飛べないので、暇潰しに出かけていったのだろう。
俺もこのあと予定を入れていた。点検の終わった機体を確認したあと、改装についてメカマンと打ち合わせするつもりだ。今のところ大きな不満はないが、完璧に満足しているとも言い難い。武装にしても速度にしても防御力にしても、まだ完璧にはほど遠い。
昨日獲得した報酬額と改装にかかる費用を頭の中で比較しながら、愛車"スーパーカブ"のスターターをキックする。エンジンの発する乾いた音が立ち並ぶハンガーに響く。珍しく晴れ渡った11月の空の下、日に日に冷たさを増しつつある風が頬に染みた。


市街を南北に貫くリンデンバウム通り。そこを抜けると東カテガット海に面するレーベック軍港へと出る。軍港周辺には大型の船渠や鉄工所などの大型施設が顔を揃えているが、その周辺には隣接して多くの中小整備工場が建ち並んでいる。デリッククレーンや大型射出形成炉を備える工場から、殆どバラック一つの粗末な工場まで、無数とも思える整備工場が軒を並べている。その多くは戦闘航空機か戦闘車両、あるいはその両方を整備するプレイヤーの私工廠である。パイロットや戦車乗りが圧倒的に多い『ASO』であるが、工廠を営む整備士(あるいはそこでスキルを習得している見習い)も全プレイヤーの約二割を占めている。彼らは、戦闘系プレイヤーの商売度具である航空機や車両のメンテナンスやカスタマイズを担う。あるいは、オリジナルの機体を世に送り出す。標準の機体や装備から少しでも自分好みに変えようとすれば、彼らの力を借りなくてはならない。
ごみごみと立て込んだ(それでいて搬入搬出のために辛うじて道路だけは広い)私工廠の合間を抜けて、俺は一軒の古びた整備工場にカブを止める。
煉瓦で申し訳程度に作られた門柱には、『ハインケル・ウント・ラッセル整備工廠』と書かれたブロンズのプレートがはめ込まれている。
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2020/12/28(Mon) | 小説本文 | トラックバック(0) | コメント(0) | page top↑
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